Macau,HongKong 3

9.21
マカオに無事到着した。ただ入国審査で相変わらず彼はひっかかっていた。韓国の証明写真で撮ったというその写真は、たしかにちょっと違う人だ。白すぎる。笑った。
フェリー乗り場からホテルに行くのもひとてまあった。タクシーで行こうとタクシー待ちの列に並んでいたのだが、どうやらここも現金決済オンリーらしい。運転手に、この現金でホテルまで足りるか?と聞いたらnoと帰されたので渋々お金を下ろそうとした。しかしちょっと高めの金額からしか現金を下ろせないATMだったのでそれも断念し、代わりにバスに乗ってホテルに向かうことにした。マカオのバスは緩急のつけかたが荒いというか、けっこう揺れた。アトラクションみがあって楽しかった。バスから降りたマカオの町並みは、非日常に包まれていた。ところどころ看板が光っていたものの、カジノ街と比べると暗くてひっそりとしていた。バス停からホテルはとても近かった。ホテルに1時頃にチェックインし、6時にはチェックアウトをするという中々タイトなスケジュールになることとなった。しかもその間もほとんどカジノに行っていたので、ホテルの滞在時間は2時間にくらいしかなかったけれど、それでもカウンターのメガネのお兄さんとか、3階にあるプールを覗いてみたりとか(彼に、プールで汗流す?と言われてプール行きたいなあとなっていたけれどもうプールに入れる時間が終わっていた。のぞいたプール、ただの床の面積が広くてプール部分が小さくておもしろかった)、なぜかでかいベッドが3つあるとか、テレビをつけてみたりとかなんだかんだ堪能した。私は体だけシャワーを浴びて、せっかくだからカジノに行くという彼に着いていくことにした。


深夜の2時頃、歩いてホテルから20分もかからない、とグーグルが言うので、それを信じて出発した。夜のマカオは、思っていたよりもひっそりとしていた。たまに車が通る静かな道を歩く。深夜の外国を歩いて、現実なのか夢なのかわからなくなってくるような、不思議な感覚になる。マップ通りに公園に足を踏み入れた瞬間、一匹の中型犬が突如として現れ、私に向かってきた。犬だと思ったのと同時にそれは8匹くらいに増え、すごい勢いでこちらに走ってくる。野犬にパニックになり駆け出そうとした私を、走った方が追いかけてくるから落ち着いて、と君が制してくれた。私の手をつかんで、大丈夫、とゆっくり来た道を引き返す。公園から出て人気のありそうな道を少し歩き、もう犬たちが追ってこないのを確認したあと、ふたりしてびっくりしたと笑った。私はとても怖かった。でも、隣に君がいてくれて良かったなと思った。心強く感じた。それからもなるべく公園ぽいところは通らないように、車通りのありそうなところを通ろうということを考えて道を進んだので、当初の予定よりだいぶ時間がかかった。だけど、遠回りして見た深夜に明かりをつけているお店やそこで駄弁っている人たち、街灯の明かりや色々な景色を見られたから、とても楽しかった。やっとのおもいで到着したベネチアンカジノ、入口がわからなくて車オンリーの地下の入口から侵入した。黒い服の警備の人たちがたくさん巡回していて、見つかったらどうしようと怖かった。逃走中とか脱出ゲームみたいだと思う一方でやっぱりすこし怖いなと思っている私に反し、彼はどんどんと進んでいく。その対比もおもしろくて笑った。彼についていくままエレベーターに乗ることに成功し、なんとカジノに入ることができた。入口のコワモテのお兄さんがパスポート確認の際、私にだけとびきりの笑顔を見せてくれたのも謎でふたりで笑った。

人生初のカジノは、とっても大きかった。広すぎて大きすぎて、どこに行けばいいのかさっぱりだった。そして想像していたものよりも大分違った。まず、みんな正装というか豪華な服を着た外国人観光客で埋め尽くされているのかな、と思っていたものの、実際にはTシャツを着ている人だらけだった。しかも中国人しかいなかった。そして私の中のカジノの知識はASMRのべにおちゃんしかなかったので、べにおちゃんみたいな人がディーラーやってるのかなと思ったら、ふつうにスーパーでレジをしてそうなおばさまたちだった。カジノも24時間営業だということに勝手に仲間意識が芽生えて、2交代勤務なのか3交代勤務なのか、給料はどのくらいなのだろうかとそういうことを考えていた。

深夜特急を読んでカジノの知識を取り入れていた彼がいろいろと教えてくれた。サイコロの出た目の数で大小が決まるものがいちばん簡単でわかりやすいとか、掛け金には最低額があるとか。本当に無知だったので、それらをきいてなるほど〜と思った。1言にカジノといっても色々あるのだ。ふたりで人が集まっているテーブルを見てみたり、足が疲れたのでゲーセンに置いてあるようなスロットの椅子に座って休憩してみたり。何度かインチキ臭い兄ちゃんに声をかけられて、返事しちゃだめだよ!と彼に言われたり。サイコロ大小のやつがわかりやすかったので、ほとんどそれしかみてなかった。澄ました顔でずっと連チャンで勝っている女のヒトがいて、かっけえと思った。最後に行ったテーブル、めちゃくちゃ盛り上がっていてサイコロの目が出るたび、大小が連続するたびに歓声がすごかった。歓声で怯えるかと思ったのか彼が時々わたしの耳をふさいでくれた。そしてずっと手を握ってくれていた。そして最後にみたテーブルがあまりにも盛り上がっていて人が多すぎた。興奮した参加者が椅子から立ち上がっていたので、足の疲れたわたしはドサクサに紛れてその椅子に座った。

ずっとカジノやりたい換金したいと言っていた彼だったが、いざそのテーブルの様子を見てると怖くなったのでやっぱりいいやという。本当にいいの?やったほうがいいんじゃないの?という私に、ううんやらないと返す。次の違う結果が出たらホテル帰ろっか、と言われたので、うん、とこたえた。帰りもたのしかった。入口がわからなかったので当然出口もわからず、コワモテの兄ちゃんにエントランスを聞いたり道に迷ったりしながら正規のルートでカジノを後にした。カジノのなかは明るくて眩しくて派手だったけど、外はやっぱり暗くて静かで別世界みたいで、不思議だった。壊れた歩く歩道を普通に歩いたり、きれいな公共トイレに行ってそのきれいさに感動したり、歩く歩道で懸垂をするおじいちゃんがいたりしながら、来た道を戻った。まるで夢みたいな、ふわふわした素敵な時間だった。今回の旅の中でも冒険、というのにぴったりな時間だった。 ホテルに着いて、明日の朝は早いとかどの時間のバスに乗るとか話をした後、わたしは1時間だけ寝た。興奮もしていただろうにぐっすり1時間眠ることができた。 

朝はすぐに来た。相変わらず彼は一睡もしなかったらしく、ほんとにこの子大丈夫かと不安になった。
荷物を整えて忘れ物がないかを確認して、起床数分でホテルを後にした。朝のマカオはまだ薄明るいなという程度で、夢の中みたいにぼんやりとしている。ふたりでメガネをして寝起きのぼんやりした状態でバス停まで歩くのが楽しかった。朝のまち、早起きな人々。明らかに空港に向かうだろうというスーツケースを持ったお兄さんがいたのでその人についていけば大丈夫だろうと話していた。バスは時間になってもなかなか来ず、大丈夫かな?スーツケースニキがいるから大丈夫っしょと話していた。座って待っていたら、通学中の女の子から、笑顔でおはようございます!と声をかけられてめちゃくちゃ嬉しかった。本当に忘れられない。おはようございます!とわたしも返した。素敵な朝すぎる。わたしは野犬とか夜の静かな街の風景とか、そういうあまり明るくないイメージでマカオを捉えていたけれど、その子の一瞬でマカオが大好きになった。この子がいればマカオは明るい、大丈夫だと思った。

いよいよバスがきて乗り込んだものの、グーグルが指定する降り場はどう考えても空港ではなくて、結局自分たちの勘とスーツケースニキを頼りにしてなんとかマカオ空港に到着した。最初に着いた時は香港に行くのに必死だったり、マカオに着いた!という気持ちでいっぱいであまり空港内を見られていなかったが、余裕をもって空港をみてみると、大分こじんまりとしていた。早朝ということもあってか穏やかで、好きな空気だった。手荷物検査を受けたりおみやげやさんで試食したりした。試食がうますぎて感動した。おみやげを買おうかなと思ったけど、いいなと思った商品が高額すぎて無理だった。桁が違う。自販機を見たり、窓の装飾を眺めたりしたあと、椅子でぼんやりと時間を待った。彼がこっくりこっくりしてるのがおもしろくてかわいかったのでめちゃくちゃそれを眺めていた。動画にもおさめた。いつも口開けて寝るからかわいいんだよな。

飛行機でもひたすら寝ていた。機内食は行きのときよりも段違いにおいしくてテンションが上がった。エア枕とアイマスクで本腰を入れて寝る彼、隣で無装備で寝る私。ネックピローをたたむとき、中にはいっていた空気を全部食べてるのがおかしくて笑った。
関西国際空港について、あ〜〜〜着いちゃった〜〜〜という残念な気持ちと、台風もなにもなく無事に4日間過ごすことができたという感謝や安堵感があった。
入国審査の入口がふたりで違っていて、出口ではぐれてしまった。どうしようと焦りとさみしい気持ちになったが、電話をする前に無事に会えたので安心した。

次の日は朝早くから研修だったし疲れていたので早く帰るのがベストだとは思っていたけれど、やっぱり少しでも長くいっしょにいたくてお昼を食べようといった。関西国際空港のフードコートに向う。先に買ってきていいよ、と君はテーブルで席取りをしてくれた。やさしい。本当はうどんを食べたかったけれど、とてつもなく並んでいたので空いていたたこ焼き屋さんでたこ飯を頼んだ。
彼が買い物にいったとき、その様子がかわいくて見ていた。そしたらラインで先に食べてていいよ、と言われ、お腹も空いていたし時間も気がかりだったので、言葉に甘えて待ちきれなくて食べた。彼が私の食べたかったうどんを頼んでいたので一口もらった。おいしかった。

ごはんを食べ終えて、関西空港駅に向かった。空港から出たとき、ああ、着いたんだなあと感じた。終わっちゃったんだなあと。快速に乗る前、彼が本当に楽しかった、本当にありがとう、またね、とたくさん言ってくれた。そして私がエスカレーターで下りて見えなくなるまで、何度も手を振ってくれた。それがうれしくて、彼がいる方を何回も振り返った。帰りの列車で思い出のアルバムを作ろうと思ったが、あまりに眠かったのでできなかった。
ああ、やっとマカオと香港の思い出を書くことができた。書きながら、おもしろかったなあてにやにやしちゃったり、楽しい思い出が蘇ったり、改めてやさしかったところを思い出したりした。泣いたこともあった。いま、泣いている。色々あったけど、どうしようもなく、幸せだったなあ、って思っちゃって、それがもう手に入らないもののように思えて。3週間前のことなのになんだかずいぶんと昔のことのようだ。